格安3Dプリンターを使用してABSフィラメントでプリントした方法

格安3Dプリンターを使用してABSフィラメントでプリントした方法

現在使用している3DプリンターはANYCUBIC MEGA-S(i3 mega)という機種を使用してプリントをしています。


マテリアルは主にABSという樹脂を使用しています。

以前作成したハイエース用のバックカメラカバー
以前作成したハイエース用のバックカメラカバー


簡単にABSフィラメントのメリットを説明すると、ABSフィラメントは柔軟性があり、環境温度が少々高くても変形しにくいため、実用的なものが作成できるのが、ABSフィラメントを使用するメリットです。表面に塗装して仕上げれば紫外線による劣化の進行も防ぐまではいかないけど遅らせることが出来るはずです。
写真のバックカメラカバーは取り付けて一年位経ちますが、劣化の気配はありません。
ただ、その反面プリント時の温度変化による収縮や、ベッドへの定着性の悪さにより、プリント時に失敗する確率がPLAやPETGなど他のマテリアルに比べ高く、無駄になったフィラメントとプリント時間をゴミ箱へ捨てることが多々あります。

この記事に興味を示した多くの方が同じような苦労をして、ABSフィラメントでプリントすることを諦めたり、現在苦労している方へのヒントになればいいと思いこの記事を書こうと思います。
基本的にはネットの情報を色々試した結果、効果を感じた事だけを紹介しますので、その他の方法でもABSフィラメントでプリントすることができるかもしれません。


印刷品質についてはスライサーソフトのパラメーターによる影響が大きいので、今回の解説から除外します。m(__)m
3Dプリンターの初歩的な説明や活用方法等も他のサイトやブログの方がとても丁寧に説明されているので、よって細かな説明は割愛させていただくので、ご了承お願いします。

ABSフィラメントでプリントするためには大きく分けて

  • プラットフォームへ確実に定着させ、プリントの初期段階の失敗を回避する。
  • プリント中の周囲温度を一定以上の温度に保って、急激な温度低下による反りや積層割れを回避する。

この2点に尽きると思います。逆にこの2点さえクリア出来ればABSフィラメントのプリントが成功する確率は飛躍的に上昇するはずなので、この2点にたいして実際行った対策を紹介したいと思います。

※ANYCUBIC MEGA-S(i3 mega)を使用して実際に行った対策なので、他の機種では出来ないことがあるかもしれませんが、少しでも参考になれば幸いです。

ABSフィラメントをプラットフォームへ確実に定着させる方法

ヒートベッドの温度を出来るだけ高くする

これは、どのサイトの記事にも書いてある事ですが、間違いなく重要だと思います。
もしヒートベッドが無い機種だと、ABSフィラメントでプリントすることは、相当厳しいと思います。
今までABSフィラメントを使用していて、メーカーによってプリント条件がかなり違うので、一概には言えませんがヒートベッドを100~110℃位が安定してプリントできている印象です。
もしカスタムファームを入れているのであれば、PIDオートチューンで、ヒートベッドの温度を安定させることができます。

カスタムファームについては、

こちらのサイトがとても分かりやすく、参考になりました。

プラットフォームの定着力を上げる

これについても、いろいろなサイトに記事があります。
メーカー毎に特製が違うABSフィラメントの温度特性や定着力も見事にバラバラです。しかも時間の経過とともに劣化が原因かわかりませんが、今までガラスベッドに定着しなかったものが、突然定着したりその逆もありました。
ABSフィラメントが定着しにくい詳しい理由はわかりませんが、ANYCUBIC MEGA-S(i3 mega)のベッドはガラス製で表面に高温になるとフィラメントが定着しやすく成るようなコーティングがしてあるようです。
初めはそんなことも知らずに、プリントする度にベッドに付着した油成分を無水エタノールでベッドを拭いてクリーニングしていました。
どうやらこの行為がフィラメントの定着力を低下させてしまったようです。
そこで、他のサイトの方の情報を元に色々試した結果、

・スティックのり
・マスキングテープ

の組み合わせが良好な結果が出ました。

スティックのりは正直何でもいいと思います。
マスキングテープは複数の幅を用意するとプリントするサイズに合わせて貼る事が出来ます。

更新

オートレベリングを実装することで、スティックのりだけで十分定着します。

初期レイヤーのプリント速度を遅くして、冷却ファンを停止する

これも、いろいろなサイトにある情報ですが、プリント速度を遅くして定着する時間を稼ぎます。プリント速度が速いと、定着するまえに樹脂が引っ張られてプラットフォームから外れてしまいました。
フィラメントの状態にもよりますけど、10~20mm/s位の速度に設定しています。いきなり極端に遅くしすぎるとフィラメントが焦げてノズルが詰まる原因になってしまうので、テストプリントで徐々に遅くしていくのがいいと思います。
初期レイヤーの冷却ファンを止めることによって、フィラメントの液化時間を稼いで移動時に樹脂が引っ張られてベッドから外れるリスクを減らします。冷却ファンもテストプリントで確認して50%位でも定着するなら、ファンを止める必要はないと思います。

初期レイヤーの厚みを増やす。

プラットフォームに歪みがある場合に、初期レイヤーを厚くして凹凸を吸収します。
ANYCUBIC MEGA-S(i3 mega)はガラスベッドで比較的歪みにくいプラットフォームだと思います。ですが実際使っているうちに、中央付近のレベリングが難しくなり、歪みが発生したのか、初めから歪んでいたのかはわかりませんが、最終的にプラットフォームの4隅のネジの調整では対応出来なくなりました。
きれいにプリントは出来ないかもしれないですが、初期レイヤーが定着しないと何も始まらないのが3Dプリンターなので、1層目を0.3mm以上でプリントして凹凸を吸収してしまいます。

メッシュレベリングを設定する

カスタムファームが必要ですが、これは効果が大きかったです。
プラットフォームを5×5の25か所のレベルを個別に設定できるので、プラットフォームの歪みを確実に補正してくれます。
設定時はノズルとヒートベッドをプレヒートしてから設定したほうが誤差は少なくなります。
初めはトラブルを防ぐために、両サイドにあるZ軸のリミットスイッチの調整ネジを時計方向へまわして、ホームポジション時に高めになる様にして、両サイドの高さが同じになる様に徐々に調整ネジを回して、調整します。
この調整は

https://note.com/y_labo/n/n3bf2d4e273f2

こちらの記事がとても参考になりました。

メッシュレベリング時のシックネスゲージは、

長めの方が個人的には使いやすかったです。

プラットフォームを調整する4隅のネジの間に入っていたバネの代わりにM4のナットを数個スペーサー代わりに入れて、プリント中の振動でもプラットフォームが上下しないようにしました。

バネの代わりにナットをスペーサーとして使用

ナットはステンレスより炭素鋼の方が熱膨張が少ないはずなので、安い炭素鋼(普通のナット)のナットがおすすめです。

エクストルーダーのキャリブレーション

プリントに必要なフィラメント量を確実に供給するための設定です。
REPETIER-HOSTというソフトを使用して設定します。

https://note.com/y_labo/n/nce26de479f93

この記事を参考に設定しました。

REPETIER-HOSTへ繋がってもエラーになることがあるらしいので、自分のPC(Win10)でREPETIER-HOSTから3Dプリンターへ接続している設定を載せておきます。

REPETIER-HOSTの設定

自分はこの設定で接続できています。
3Dプリンターのドライバーがインストールしてある前提で書いています。
COMポートはそれぞれの環境で違うと思うので、デバイスマネージャで確認してください。
接続がうまくいってない方への参考になれば幸いです。

まとめ

上記をすべてやった結果安定してABSフィラメントがプラットフォームへ定着するようになりました。
必ずしもすべてやる必要は無いかもしれませんが、やっておいたほうが定着の安定性が確実に上がり、失敗したフィラメントと貴重な時間をゴミ箱へ捨てる回数は減ると思います。
適正なノズルの温度やプリント速度はフィラメントメーカーによって間違いなく違います。大きな物をプリントするときはテストプリントを繰り返して、良好なプリント結果を確認してから本番のプリントをすることが、結果的に時間の短縮になると思います。

周囲温度を一定以上に保った方法

ここからは、3Dプリンターへの負担が大きく、最終的に故障・事故の原因になる可能性があります。

保温するために3Dプリンターの周囲を囲う

この方法は結構ネットにも出てるので、試されてる方も多いと思います。

3Dプリンターを置くために自作した棚

写真は3Dプリンターを買ったときに3Dプリンターを置くために自作した収納兼棚です。夏ごろに買ったので、当初はABSフィラメントもプリント出来ていたのですが、徐々に寒くなるに度にプリントが安定しなくなりました。プリント中に上部から急激に冷えてしまって反りや積層割れの発生で失敗が連発したのです・・・
ヒートベッド付近は加熱されているため定着してしまえば安定していますが、高さのあるものをプリントすると、失敗してしまいます。
夜寝る前にプリントして、朝確認するとゴミが出来上がっているとため息が出ます。
そこでネットで情報を探していると、なんとABSフィラメント対応の高価な3Dプリンターはケースに入っていて、温度を急激に下げないような構造になっているらしい・・・
恐らくモーターや駆動部の部品が高温に耐えられる物を使用しているから高価なのでしょう。
しかし ANYCUBIC MEGA-S(i3 mega)は故障時のパーツが割と安価に手に入るし、壊れてもなんとか自力で治せるだろうという安易な考えから、写真の右下のスペースへ閉じ込めてしまおうと考えました。

3Dプリンターを囲う

制作中の写真は一切ありませんw
・・・写真に写りこんだおっさんのメタボ腹は見逃してくださいw
正面へ合板にアクリルの板を固定した窓を丁番で固定して、プラットフォームより下は基板や電源があるので熱を逃がす為開放しました。よって清音効果は全くありません。。。

3Dプリンターを囲う

正面の窓を開けるとスライドレールで3Dプリンターとフィラメントが出てきてメンテナンスが出来るようにしました。棚の奥行の関係で横向きに設置しましたが、メッシュレベリング時に横から手が入るので、予想外に調子いいですw
フィラメントはパネル操作の邪魔になるので、適当なステーで移動しました。
電源スイッチが触りにくくなったので、正面へコンセントのスイッチを取り付けて、電源管理を出来るようにしてあります。
扉は適当な金具で開けたまま固定できるようにしてあります。
今回はたまたま可動式の棚受け金具があったので、それを利用しました。専用の金具でも突っ張り棒でも一時的に固定できれば何でもいいと思います。
内部に、昔にニトリで買ったUSBのLEDランプを取り付け窓を閉めても中の様子がわかるようにしました。

LED照明で中を照らす

冬場でも足らない熱源を補い温度を一定の範囲内に保つ

冬場の夜中だと室温が急激に下がり、囲うだけでは温度を保て無くなります。
スタイロフォームなどで断熱してもいいんですが、夏場は逆に温度が上がりすぎて、プリント結果が不安定になってしまいます。
そこで、強引ではありますが、ミニオイルヒーターをいれて、サーモスイッチで温度管理することにしました。

3Dプリンターの温度管理

一般家庭で使用する温度スイッチは換気などをするために温度が一定以上に上昇するとスイッチが入る仕様が多くさらに接続できる機器の消費電力が大きい物には適合していないものがあります。
ノーマルクローズタイプの温度スイッチで10A位まで対応したものを選定してください。

一応参考商品のリンク貼っておきます。

サイズが大きい物をプリントすると長時間連続稼働するので、温度管理はとても重要です。

ABS樹脂を格安3Dプリンターでプリントした自作サイクロン集塵機

写真のプリントに要した時間は、34時間もかかりました。
本来ならもっと分割したほうが失敗した時のリスクが少ないはずですが、温度管理がしっかりしていれば、ほとんどトラブルはありません。
スライサーの設定を変更すればもう少し時間を短縮できると思います。

まとめ

ABSフィラメントを安定的にプリントするには温度管理は必修だと思います。
エアコンで室温管理するよりは、狭い空間をミニオイルヒータで管理したほうが電気代も安く、エアコンの故障も避けられます。ミニオイルヒーター500W程度なのでコンセントの過熱による火災のリスクも少ないと思いますが、安全を考えると出来るだけ近くで監視することは重要だと思います
。これで一年中一定の温度に保つことができ、副産物としてフィラメントを乾燥させる効果があったような気がします。(一年以上前の放置していたフィラメントも使用できました。)